トランススケール量子科学国際連携研究機構

学術フロンティア講義「ノーベル物理学賞と地球の未来」

                            

理学系研究科Youtube上にて公開中の「ほのぼの物理キーワード辞典」で紹介した物理学(物性物理、宇宙物理、素粒子物理、量子情報、生物物理など)における最先端トピックスを通して、全13回のオムニバス形式でわかりやすく説明する。テーマは、近年のノーベル物理学賞の対象分野を中心に、まだ研究として若く教科書にも掲載されていない分野から、ビッグサイエンス、地球温暖化に関わる分野等、幅広く俯瞰的な内容となっている。

講義内容は物理学進学希望者はもちろん、社会で科学技術を用いた職業を志す者、科学技術を対象として計画立案する者、理学系の教職を目指す者も、物理学の最先端を把握し、将来の糧として身につけるべき内容となっている。本講義を通して、物性物理から南部博士が素粒子の対称性の破れを導き、逆に素粒子として考えられたワイル粒子が物性物理で発見されるなど、各分野が相互に、そしてダイナミックに影響しあいながら発展していく学問が「物理学」であると捉えてほしい。

さらに、理学の区分を超えて、金融系への応用*1はよく知られているところだが、最近では生成AIへの貢献も始まっている*2。気候変化*3/地球温暖化の対策やマネジメントを志す者には言うまでもなく、真鍋博士のノーベル賞受賞で広く知られる通り、その基礎は物理学である。また、現代社会を駆動する情報技術は、量子物理学から生まれた量子1.0(トランジスタ、レーザー、核磁気共鳴等)と呼ばれる技術だが、近年は量子2.0と呼ばれる量子コンピュータ、量子センサ、量子通信等の研究開発に各国政府*4の後押しで莫大な投資がなされ、数百のスタートアップが起業され、大手企業も参入し、コンソーシアムが続々立ち上がっている。

物理学×AI、物理学×金融、物理学×情報、物理学×地球温暖化、物理学×政経、物理学×医療
全く異なる分野が物理学をベースにあるいはツールにして新たな領域を築きつつある。我々はここでも歴史的転換点を目撃しつつある。特に、国の政策立案を志す者の場合、諸外国の政策担当者は研究者出身であることも多いことから、そのカウンターパートとして対等に渡り合うには、物理学に対する一通りの理解が求められるだろう。

講師陣は第一線で活躍する研究者で駒場での交流を非常に楽しみにしており、講義中は、研究はもちろん、研究生活からキャリア形成まで積極的に質問を受け付ける。本講義を受講することで、物理学分野の最先端動向を俯瞰的にとらえることができるとともに、自身の将来のキャリアパス形成の参考情報を得ることができるため、是非このチャンスを逃さないでほしい。

*1: 高安美佐子,“経済に物理学は役立つか?”, 日本物理学会誌, 2016 年 71 巻 11 号 p. 732.
*2: Steve Nadis, “The Physical Process That Powers a New Type of Generative AI”, Quanta Magazine, Sept 19, 2023.
*3: 気候変化は学術用語、気候変動は行政用語。
*4: 我が国の戦略は、「量子技術イノベーション戦略」「量子未来社会ビジョン」「量子未来産業創出戦略」の3段階。
https://www8.cao.go.jp/cstp/ryoshigijutsu/ryoshigijutsu.html

講義内容

  1. 第1回
    (4/5)

    Guidance (Lecturer Akito Sakai) & “Ultrashort-pulse lasers” of the Nobel Prize 2023

    板谷治郎 准教授:附属極限コヒーレント光科学研究センター
    Assoc. prof. Jiro Itatani

  2. 第2回
    (4/19)

    “Accerelating expantion of the Universe” of the Novel Prize 2011

    吉田直紀 教授:理学系研究科物理学専攻
    Prof. Naoki Yoshida

  3. 第3回
    (4/26)

    “Physical modelling of Earth’s climate” of the Nobel Prize 2021

    升本順夫 教授:理学系研究科地球惑星科学専攻
    Prof. Yukio Masumoto

  4. 第4回
    (5/3)

    “Black Hole formation” of the Novel Prize 2020

    仏坂健太 准教授:附属ビッグバン宇宙国際研究センター
    Assoc. prof. Kenta Hotokezaka

  5. 第5回
    (5/10)

    “Optical tweezers” of the Nobel Prize 2018

    小西邦昭 准教授:理学系研究科フォトンサイエンス研究機構
    Assoc. prof. Kuniaki Konishi

  6. 第6回
    (5/15)

    “Topological phase transitions and topological phase of matter” of the Nobel Prize 2016

    肥後友也 特任准教授:理学系研究科物理学専攻
    Project assoc. prof. Tomoya Higo

  7. 第7回
    (5/24)

    “Neutrino oscillations” of the Nobel Prize 2015

    横山将志 教授:理学系研究科物理学専攻
    Prof. Masashi Yokoyama

  8. 第8回
    (6/7)

    “Two-dimensional material graphene” of the Nobel Prize 2010

    桂法称 准教授:理学系研究科物理学専攻
    Assoc. prof. Hosho Katsura

  9. 第9回
    (6/14)

    “Laser-based precision spectroscopy” of the Nobel Prize 200

    相川清隆 准教授: 理学系研究科物理学専攻
    Assoc. prof. Kiyotaka Aikawa

  10. 第10回
    (6/21)

    “Mechanism of spontaneous broken symmetry in subatomic physics” of the Nobel Prize 2008

    濱口幸一 准教授:理学系研究科物理学専攻
    Assoc. prof. Koichi Hamaguchi

  11. 第11回
    (6/28)

    “Blackbody form and anisotrophy of the cosmic microwabe background radiation” of the Nobel Prize 2006

    松村知岳 准教授:カブリ数物連携宇宙研究機構
    Assoc. prof. Tomotake Matsumura

  12. 第12回
    (7/5)

    “Quantum information science” of the Nobel Prize 2022

    村尾美緒 教授:理学系研究科物理学専攻
    Prof. Mio Murao

  13. 第13回
    (7/12)

    “Asymptotic freedom in the theory of the strong interaction” of the Nobel Prize 2004

    Liang Haozhao 准教授: 理学系研究科物理学専攻
    Assoc. prof. Liang Haozhao

講師紹介

第1回 「2023年 アト秒レーザー -高強度極短パルスレーザーとアト秒科学-」板谷治郎 准教授 物性研究所極限コヒーレント光科学研究センター

過去20年余にわたる極短パルスレーザーの技術革新により、アト秒領域(1アト秒=10の-18乗秒)の超高速光科学(アト秒科学)が急速に進展し、2023年のノーベル物理学賞がアト秒科学の実験的手法を考案した三氏(Pierre Agostini, Ferenc Krausz, Anne L’Huiller)に授与された。本講義では、ここに至るまでのレーザーの技術革新と超高速光科学の進展を概説し、アト秒科学の最前線を紹介する。

参考文献

第2回 「2011年 宇宙の加速膨張 -人類の新しい宇宙観-」吉田直紀 教授 理学系研究科物理学専攻

最新の大型望遠鏡を用いた観測により、宇宙の成り立ちや進化の歴史について多くのことが明らかになってきました。現在の宇宙は正体不明のダークエネルギーに満たされていて、宇宙膨張は加速度的に速まっています(2011年 ノーベル物理学賞)。宇宙初期に生み出されたほんのわずかな密度の「揺らぎ」から天体や大規模構造が形づくられ、それらを詳細に観測することで宇宙の進化を明らかにすることができます(同2019年)。最新の宇宙像についてわかりやすく解説します。

参考文献

第3回 「2021年 気候変動・変化」升本順夫 教授 理学系研究科地球惑星科学専攻

地球の気候はどのように決まり、どのように変動しているのか、また将来どうなるのかを考えるには何が必要でしょうか?地球の気候は、大気や海洋、陸面の様々な物理過程が相互に影響を及ぼしながら1つの超複雑系を形作っているため、個々の要素を支配する物理プロセスを理解するとともに、それらの相互作用も考慮する必要があります。2021年のノーベル物理学賞を受賞された眞鍋淑郎先生は、このような複雑系に対して大胆な仮定を入れながらその本質を明らかにする研究を続け、今日の気候変動・変化の予測を実現する土台を構築しました。その一部を含め、気候を物理的に理解することについて考えます。

参考文献

  • Syukuro Manabe and Anthony J. Broccoli, “Beyond Global Warming: How Numerical Models Revealed the Secrets of Climate Change”, 2020, Princeton Univ Press, ISBN-13: 978-0691058863.
  • 真鍋淑郎、アンソニー・J・ブロッコリー(著)、阿部彩子、増田耕一(翻訳、監修)、宮本寿代(翻訳)、「地球温暖化はなぜ起こるのか」(ブルーバックス)、2022、講談社

第4回 「2020年 ブラックホール」仏坂健太 准教授 附属ビッグバン宇宙国際研究センター

Einsteinが提唱した一般相対論の予言のうち、光も抜け出せない天体ブラックホールは最も有名である。一般相対論の発表から100年以上たった現在でもブラックホールは人々を魅了しており、今ではブラックホールは大質量星の最終形態として宇宙のいたるところに存在することがわかっている。また2015年の重力波の発見以降重力波観測によってたくさんのブラックホール合体が検出されている。本講義では、ブラックホールの基礎、宇宙物理学的な性質、重力波で見えてきたブラックホールについて解説する

第5回 「2018年 光ピンセット」小西邦昭 准教授 理学系研究科フォトンサイエンス研究機構

2018年にノーベル物理学賞を受賞した米国のアーサー・アシュキン博士によって発明された光ピンセットは、レーザー光が物体に及ぼす力(光圧)を用いることで、原子や細胞などの微小な物体を、非接触で、自在に補足、移動させることのできる革新的な技術であり、現在では物理学や生物学の分野の発展に欠かすことのできないツールとなっている。本講義では、光ピンセットの基礎と、その応用に関して概説する。

参考文献

  • 石原一、芦田昌明「光圧 ー物質制御のための新しい光利用ー」朝倉書店 https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=13139
  • 記念碑的論文:A. Ashkin, J. M. Dziedzic, J. E. Bjorkholm & S. Chu:”Observation of a single-beam gradient force optical trap for dielectric particles”Opt. Lett., 11, 288(1986)

第6回 「2016年 トポロジカル相」肥後友也 特任准教授 理学系研究科物理学専攻

情報技術の急速な発展は生活を豊かにする一方で、エネルギー消費の増大という課題を提示している。その解決手段として、技術の根源たる物質開発にイノベーションが求められている。トポロジー(位相幾何学)に着目した物性開拓は、従来の物質では発現しえない量子現象を実現可能にし、物質科学に新たな地平を拓いている。本講義では、トポロジーを物性研究に初めて導入し、我々の物質観に新しい視点を提供した2016年のノーベル物理学賞受賞研究「トポロジカル相転移および物質のトポロジカル相の理論的発見」から先端の物性研究まで紹介する。

参考文献

  • J. M. Kosterlitz and D. J. Thouless, Long range order and metastability in two dimensional solids and superfluids. (Application of dislocation theory)., J. Phys. C: Solid State Phys. 5, L124 (1972).
  • D. J. Thouless, M. Kohmoto, M. P. Nightingale, and M. den Nijs, Quantized hall conductance in a two-dimensional periodic potential., Phys. Rev. Lett. 49, 405 (1982).
  • F. D. M. Haldane. Continuum dynamics of the 1-D Heisenberg antiferromagnet: Identification with the O(3) nonlinear sigma model., Phys. Lett. A 93, 464 (1983).

第7回「2015年 ニュートリノ振動」横山将志 教授 理学系研究科物理学専攻

物質を構成する最小単位である「素粒子」のひとつ「ニュートリノ」は、ほとんどなんでもすり抜けてしまう不思議な粒子です。我々の周りにも膨大な数のニュートリノが存在しますが、研究が難しくまだ多くの謎を秘めています。梶田隆章先生のノーベル物理学賞受賞理由となった「ニュートリノ振動」の研究を中心に、人工的に生成したニュートリノビームによる研究や、宇宙の始まりの研究との関連、現在建設中のハイパーカミオカンデ計画など最新の研究を紹介します。

参考文献

【一般向け】

  • 「ニュートリノで探る宇宙と素粒子」梶田隆章、平凡社
  • 「宇宙になぜ我々が存在するのか」村山斉、講談社ブルーバックス

【教科書】

  • 「ニュートリノ物理学」白井淳平・末包文彦、朝倉書店
  • 「素粒子物理学」グリフィス著/花垣和則・波場直之 訳、丸善

【記念碑的論文等】

第8回 「2010年 グラフェン」桂法称 准教授 理学系研究科物理学専攻

2010年のノーベル物理学賞はAndre GeimとKonstantin Novoselovに授与された。受賞理由は彼らにより2004年に発見された二次元物質グラフェンである。グラフェンは、一原子の厚さの炭素原子のシート状の物質で高い電気伝導特性や熱伝導度、強靭性など様々な優れた性質をもつ。本講義では、グラフェンが発見された経緯や、その特異な性質の理解の鍵となる質量のないディラック粒子との類似性などについて議論する。

参考文献

第9回 「2005年 レーザー分光」相川清隆 准教授 理学系研究科物理学専攻

1960年代に開発されたレーザーは、太陽光や蛍光灯などの古典的な光とは異なる特異な性質があり、これらを活かして、精密分光、精密加工、高精度観測、量子技術など多彩な応用が生み出されてきた。2005年のノーベル物理学賞は、これらの性質のうち、特に光のコヒーレンス、つまりレーザーの位相が揃っている状態についての理論、およびこれをうまく利用して原子や分子の内部構造を精密に分光する技術に対して与えられた。本講義では、現代の時間計測技術の根幹をなすこの技術についてわかりやすく解説する。

参考文献

  • R. Loudon著、小島 忠宣 (翻訳), 小島 和子 (翻訳)、光の量子論、内田老鶴圃 1994/6/1
  • N.Picque, T.W.Haensch, Frequency comb spectroscopy, Nature Photonics 13, 146 (2019)

第10回 「2008年 対称性の破れ」濱口幸一 准教授 理学系研究科物理学専攻

2008年のノーベル物理学賞は「素粒子物理学における対称性の自発的な破れの発見」で南部陽一郎氏が、「自然界にクォークが3世代以上あることを予言する、対称性の破れの起源の発見」で小林誠氏及び益川敏英氏が受賞されました。本講義では、これらのテーマの概要について解説するとともに、素粒子物理学に関連する初期宇宙の謎についてもお話したいと思います。

第11回 「2006年 宇宙マイクロ波背景輻射 物理で迫る宇宙の始まり」松村知岳 准教授 カブリ数物連携宇宙研究機構

「我々はどこから来たのか?」という哲学的な問いは、現代の物理学を用いて宇宙の始まりまで遡ることができる。これを可能にしたのが、ビッグバンで始まった宇宙像を観測的に示した宇宙マイクロ波背景放射背景放射の観測(2006年ノーベル物理学賞)、そして一般相対性理論と素粒子物理を駆使して初期宇宙を我々の日常を記述するのと同じように物理を用いて語れるようにした物理的宇宙論の開拓(2019年ノーベル賞物理学賞)である。本講義では、現在宇宙の始まりを科学者がどう捉えているかを紹介するとともに、二つのノーベル賞が果たした役割について紹介する。

参考文献

  • 「A Brief History of Time」 Stephen Hawking

第12回 「2022年 量子情報科学」村尾美緒 教授 理学系研究科物理学専攻

近年、量子コンピューターなどの量子情報技術が急速に発展しており、科学技術に新たなブレークスルーをもたらす可能性が期待されています。その基盤となる量子力学の原理に従うと、古典力学的な直感に反する非局所的な相関であるエンタングルメントを作ることができます。本講義では、2022年のノーベル賞の対象となった「エンタングルした光子によるCHSH不等式の破れの検証と量子情報科学の開拓」について説明します。

参考文献

第13回 「2004年 強い相互作用」Liang Haozhao 准教授 理学系研究科物理学専攻

The Nobel Prize in Physics 2004 is about the force that is strongest and ties together the smallest pieces of matter–the quarks. Through their theoretical contributions, David Gross, David Politzer, and Frank Wilczek have made it possible to complete the Standard Model of Particle Physics, which provides a unified description of three of the four known fundamental forces (excluding gravity) and plays a central role in understanding the properties of Nature–from the tiniest distances within the atomic nucleus to the vast distances of the universe.

参考文献

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